第58章
クリシュナと結ばれた 五人の王女
ドリタラーシュトラの策略によって樹脂の家に住んでいたバーンダヴァの五兄弟が誉 母のクンティーとともに家の中で焼死したという噂が流れたのですが、その後、五兄 弟がドロゥパディーの婚儀に姿を現したので、実は死んではいなかったという噂もさ さやかれるようになりました。しかし、死んだというのはただの噂で、実際には生き ていたのです。パーンダヴァたちはハスティナープルの都に帰り、人々の前に姿を現 しました。その知らせがクリシュナとバララーマのもとに届いたとき、お二人は彼ら に直接会おうとお望みになりました。クリシュナはハスティナープルに行くことにさ れたのです毒
このときクリシュナは王として総司令官のユュダーナの他にも多数の兵卒を従えて、 ハスティナープルを訪問されました。主は正式に招待されてはいらっしゃいませんで したが、偉大な献身者であるパーンダヴァたちに対する愛情からハスティナープルを 訪問されたのです。主は前ぶれなしにパーンダヴァたちのもとをお訪ねになりました。 パーンダヴァたちは主を見るやいなや、座から立ち上がりました。完全なクリシュナ 意識でクリシュナと交際する者やクリシュナを見る者は、誰もがただちに物質的な苦 悩から解放されます。そればかりか、精神的な至福さえも授けられるのです。ですからクリシュナはムクンダとも呼ばれています。
パーンダヴァたちはクリシュナを歓迎し、あたかも生き返って無意識状態から覚め た人のように元気を取り戻しました。意識を失って倒れている人の感覚や体の各部分 は全く動きません。しかし意識を取り戻すやいなや、感覚はただちに作用を再開しま す。同じように、パーンダヴァたちはあたかも意識を取り戻したかのようにクリシュ ナを歓迎し、活気づいたのです。主クリシュナはパーンダヴァたち一人ひとりを抱き しめられました。バガヴァーンがお触れになったのです。パーンダヴァたちはただち けが に物質的な汚れの報いから解放され、精神的至福の中で微笑みを浮かべました。主ク リシュナの顔を見て、五人は超越的な満足を味わいました。主クリシュナはバガヴァ ーンでいらっしゃるのですが、普通の人間のようにふるまっていらっしゃいます。で すからすぐに1ディシュティラとビーマの足にお触れになりました。1ディシュティ ラとビーマは主にとって年上の従兄弟だったからです。アルジュナは同い年の友人と してクリシュナを抱きしめました。二人の弟たち、ナクラとサハデーヴァは敬意を示 して、主クリシュナの蓮華の御足に触れました。パーンダヴァとクリシュナはそれぞ れの立場に応じて、礼儀にのっとって挨拶を交わしました。その後、クリシュナに高い座が捧げられました。主が心地好くお座りなると、生まれながら優美で女らしい重 結婚したばかりのドロウパディーが主の前に進み出て、敬意に満ちて挨拶の言葉を捧 げました。クリシュナに従ってハスティナープルに来たヤーダヴァ家の人々も、同じ手のつ ように篤くもてなされました。サーテャキとユュダーナには特に良い座が捧げられま した。このようにして人々がすべて席についた後、パーンダヴァたちが主クリシュナまでの生涯の苦しみに思いを巡らせました。息子たちであるパーンダヴァの五人兄弟 恥おん病1,7 と自分がクリシュナの恩寵によって救われてきた場面が心の中をよぎっていきます。 ドリタラーシュトラとその息子たちがたくらんだ火事から自分たちが救われたのは、 ただクリシュナの恩寵によるものであったことをクンティーはよく知っていました。 声をつまらせながら、クリシュナの前で自分たちの生涯を語りました。
「クリシュナょ、御身がアクルーラに私たちのことを調べに行くようにおっしゃっ て下さった日のことは忘れもしません。御身はいつも私たちのことを気遣っていて下 さったのですね。御身がアクルーラを送って下さったので、これでもう大丈夫だと思 いました。御身がアクルーラを送って下さったときから、私たちの人生に幸運が始ま りました。そのときからずっと、自分たちが守られていることをいつも感じています。 クル家の人たちは同じ家族でありながらいつも私たちを苦しめ続けてきました。しか し私は、御身がいつも私たちのことを思って、守っていて下さることを信じて疑った ことは一度といえどもありません。御身をいつも思っている献身者にはどのような物 質的な危険もございません。御身がいつも私たちのことを思っていて下さるのです。
ですから、言うまでもなく、私たちには何の不安もありません。親愛なるクリシュナよ、私たちにとっては何の不幸もないのです。御身の恩寵で、私たちはいつも恵まれ “おん●ちよ、っ ています。御身が私たちに特別の恩寵を授けて下さったことに、普通の人々は御身が 不公平なお方だと誤解してはなりません。御身はそんな差別をなさいません。御身は 誰を特に愛されるわけでも、敵意を持たれるわけでもありません。ただバガヴァーン として誰に対しても平等でいらっしゃいます。誰もが御身の特別の保護を得ることが 出来るのです。御身は誰に対しても平等でいらっしゃいますが、いつも御身のことを 考えている献身者を特に気遣っていて下さるのです。そのような献身者は御身と愛の 紳で結ばれているので、たとえ一瞬さえも御身を忘れることが出来ません。すべての 者のハートの中にいる御身を献身者たちはいつも思っているので、御身も献身者たち の思いに応えて下さるのです。母はどの子も同じように愛しているのですが、ひたす ら母に頼る子のことは特に世話するものです。クリシュナょ、御身は誰のハートの中 にも座っていらっしゃって、純粋な献身者に吉兆をもたらして下さるのです。そのこ とを私は存じてあげております」
マハーラージ・ユディシュティラも、クリシュナがバガヴァーンでありすべての者 の友であることを称えました。しかし主がパーンダヴァたちを特に守っていて下さったので鴬ユディシュティラ王は言いました。 「主クリシュナょ、御身が私たちのことをこれほどまで慈しみ、慈愛を注いで下さ るとは、私たちは一体前世にどれほど敬戻な行いをしたのでしょうか。御身をとらえ ようといつも膜想を行っている偉大な神秘家たちは、私たちが授かったような恩恵を 受けることは出来ず、また御身の関心を引くことも不可能です。御身はどうしてこれ ほど慈しんで下さるのでしょう。私にはなぜなのか思いもよりません。私たちはヨー けが ギーではありません。むしろ物質的な汚れに執着し、政治には関与し、俗事にかかわ る世帯者に過ぎないのでございます。どうして御身が慈しんで下さるのか、全く存じかねます」
1ディシュティラ王に頼まれて、クリシュナは雨期の四ヵ月間ハスティナープルに 留まることにされました。雨期の四カ月間はチャトゥルマースャと呼ばれ、この期間 は旅のブラーフマナや説教徒は一つの場所に留まり、厳格な規定原則に従って生活す ることになっています。もちろん主クリシュナはすべての規定原則を完全に越えてい らっしゃるのですが、パーンダヴァに対する愛情からハスティナープルに滞在するこ とにされました。クリシュナがハスティナープルに留まっていらっしゃったので、ハスティナーブルの街の人々は幸運にも時折主の姿を見かけることも出来ました。人々 は主クリシュナの顔をただ見るだけで、超越的な至福に浸りました。
クリシュナがパーンダヴァ兄弟とともに過ごしていらっしゃったある日のこと、主 はアルジュナと森に狩りに行く準備をしていらっしゃいました。主とアルジュナは、 旗にハヌマーンが描かれた馬車に腰を下ろされました。特にアルジュナの馬車にはい つもハヌマーンの絵が掲げられているために、アルジュナはカピドワジャと呼ばれて います(カビとはハヌマーン、ドワジャとは旗という意味)・馬車に乗ったアルジュ ナは弓を携え、矢筒には、決して的を外さぬ矢が入っています。アルジュナは戦闘殺 裁訓練をするために偉大な戦士の名に恥じない鎧をまとって、虎や鹿などの動物がた くさんいる森に入って行きました。アルジュナは動物を殺しに森に入っていったので すが、クリシュナは自らの内に満ち足りていてどのような訓練も必要とはされないお 方なので、アルジュナと一緒に入っては行かれませんでした。アルジュナは将来数多 くの敵を殺さなければなりません。ですから、主は彼の訓練の様子をご覧になってい ました。森に入った後、アルジュナは数多くの虎を血祭りにあげ、熊の息の根を止め、 ほふ 野牛を屠りました。その他にもガヴァャ(野性動物の一種)、サイ、鹿、野兎、ヤマアラシなどもアルジュナの矢に射抜かれました。供儀に捧げるにふさわしい動物は召 使の手でマハーラージ・ユディシュティラのもとに運ばれました。虎やサイなどの揮 猛な動物を殺す目的は、ただ森の平和を保つことです。森の中には聖人聖者たちが多 数住んでいるために、クシャトリャは森の中にさえも平和な暮らしを保障しなければならないのです蓬
アルジュナは狩りのために疲れと喉の渇きをおぼえ、クリシュナとともにヤムナー 川のほとりに行きました。二人のクリシュナ、すなわちクリシュナとアルジュナ(ド ロウパディーとアルジュナは時にはクリシュナと呼ばれることもある)はヤムナー川 のほとりにやって来て、足、手、口を洗い、澄んだヤムナーの水で喉を潤しました。 体を休め、喉を潤していると、結婚の年ごろの美しい娘がヤムナー川のほとりに通り かかりました。主はアルジュナに、女性のところに行き、名前を尋ねて来るように命 じられました。主の命に従って、アルジュナはすぐに美しい娘に近づきました。娘の 姿は魅惑的で、笑顔には美しい歯が輝いています。 「豊かな胸の美しい少女よ、お名前をうかがってもよろしいですか。ぉ一人で歩い ていらっしゃるので、驚いてしまいました。どうして、このようなところにお越しになったのですか。余 しょ祷りか。もしよフカになhソましよう」すか@あなたにふさわしい結婚の相手を探していらっしゃるのではないで もしよろしければ、ここにいらっしゃったわけをお教え頂けませんか。
美しい娘はヤムナー川の女神でした。 「申し上げましょう。私は太陽神の娘でございます。主ヴィシュヌの妃となるため に、今は苦しい行をつんでおります。主ヴィシュヌが至上者であることは存じ上げて おります。主ヴィシュヌこそが私の婿になるにふさわしいお方です。
「あなたが英雄アルジュナでいらっしゃることを知った上で申し上げます。主ヴィ シュヌこそがすべての生あるものを守り、束縛された魂に解放をお授け下さるお方で いらっしゃいます。ですから、主ヴィシュヌこそが私の婿となるお方です。主ヴィシュ ヌが私に満足して下さるように、アルジュナ様、どうかお祈り頂けませんでしょうか」 アルジュナがクリシュナの偉大な献身者であって、アルジュナが祈ればクリシュナ はその願いを決して拒まれないことをよく知っていたのです。クリシュナに直接近づ くことは不毛な結果に終る場合もあるのですが、主の献身者を通じて主に近づけば、 望みは疑いなくかなえられます。一‐私の名はカーリンディーといい、ヤムナーの水の中が私の住処です。娘思いの父 がヤムナー川の中に立派な家を建ててくれたのです。私は主クリシュナを見つけるこ とが出来ない限り、家から出ないという誓いをたてたのでございます」 アルジュナは、すべてのハートの中のスーパーソウルとして何もかも知り尽くして いらっしゃるクリシュナにカーリンディーの言葉を伝えました。それ以上話し合う必 要はありません。主はすぐにカーリンディーをお受け入れになり、馬車に座るように おっしゃいました。馬車は三人を乗せ、1ディシュティラ王のもとへと疾走しました。
この後、マハーラージ・ユディシュティラはクリシュナに、天界の巧ヴィシュヴァ カルマーが設計した家の建築を手伝うように願いました。主クリシュナに呼ばれたヴィ シュヴァカルマーは主の命に従って1ディシュティラ王の望みに応じた素晴らしい都 市を建設しました。街が完成すると、主との交際をさらに楽しみたいと思っていたマ ハーラージ・ユディシュティラは、もう数日間留まって下さるように願いました。主 はマハーラージ・ユディシュティラの願いをお聞き入れになり、滞在期間を延長され まはハ しマ1 たハラ ○
しばらくしてからクリシュナは、インドラの所有であったカーンダヴァの森を火神アグニに与えるという遊戯を行われました。カーンダヴァの森には多くの薬草があり、 アグニは新しい活力を得るためにその薬草を必要としていたのですが、森に自分で直 接手をつけることはためらわれました。そのためにクリシュナにお願いしたのです。 アグニは以前クリシュナにスダルシャン・チャクラを捧げたことがあったので、主が きっと自分に満足していて下さることだろうと考えていました。クリシュナは、イン ドラ王の所有であったその森を火神アグニに授けようとお考えになり、アグニを満足 させるためにアルジュナの馬車に乗り、アルジュナとともにカーンダヴァの森に向か われました。カーンダヴァの森を食べ尽くした後、アグニはたいへん満足し、今度は ガーンディーヴァという特別な弓、四頭の馬、一台の馬車、二本の魔除の矢の入った 矢筒を捧げました。その魔除の矢は非常に強力で、どのような戦士もその矢に立ち向 かうことが出来ません。火神アグニがカーンダヴァの森を食べていたとき、悪魔マャ が森の中にいたのですが、アルジュナの手で猛火から救い出されました。以前悪魔で あったマャはアルジュナの大の友人となり、アルジュナを喜ばせたいと思ってヴィシュ ヴァカルマーが建設した都市の中に素晴らしい会議堂を建てました。この会議堂には 不思議な一角があります。ドゥルョーダナが会議堂を訪ねたとき、水を土、土を水と勘違いして、会議堂の中で迷ってしまったのです。ドゥルョーダナはパーンダヴァた ちの富に辱められたと感じ、パーンダヴァたちに対して激しい敵意を燃え上がらせました
数日後クリシュナは1ディシュティラ王の許しを得て、ドワーラヵーにお戻りにな りました。主はいとまごいの後、ハスティナープルで主とともに暮らしていたヤドゥ 王家の長であるサーテャキを伴って、ドワーラヵーヘとお向いになりました。カーリ ンディーもまた主と一緒にドワーラカーヘと向かいました。ドワーラヵーに戻った後、 クリシュナは学識を誇る占星術師たちと相談した上で、カーリンディーとの婚儀はい つがよいかお定めになりました。そして、カーリンディーとの婚儀のために豪華な式 が催されました。その婚儀に参加した両家はたいへん満足し、人々は豪勢なな結婚式を楽しみました。
アヴァンティープル(現ウジァイン)を治めていたヴィンダとアヌヴィンダという 二人の王はドゥルョーダナの支配下にありました。このヴィンダとアヌヴィンダの兄 弟にはミトラヴィンダーという妹がいて、彼女はクリシュナの叔母の娘にあたり、高 い教養と優雅さを具えた素晴らしい女性でした。王子たちを集めて、ミトラヴィンダIの婿選びの儀式が今行われようとしているところです。しかしミトラヴィンダーは クリシュナだけを心に強く決めていました。婿選びの儀式にクリシュナも参加してい らっしゃいました。王子たちの目の前で、主は強引にミトラヴィンダーを誘拐されま した。王子たちはクリシュナを止めることが出来ず、ただお互いに顔を見合わせるだけでした。
この出来事の後、クリシュナはコーシャラ国の王ナグナジットの娘と結婚されまし た。ナグナジットはヴェーダ儀式に従う敬度な王で、その娘サッテャーはたいへん美 しく、ナグナジット王の娘であったことから、ナーグナジティーとも呼ばれていまし た。ナグナジット王は七頭の強健な雄牛を飼っていて、その七頭の雄牛と戦って勝つ ことが出来る者に自分の娘の手を取らせようと、かねてから決めていたのです。王族 の中では七頭の雄牛に優る力を持つ者がいなかったので、誰もサッテャーの手を取る ことは出来ませんでした。七頭いずれの雄牛も荒牛だったので、王子がただ近づいた だけで、その匂いを唄いで猛り狂いました。多くの王子がコーシャラ国を訪れ、七頭 の雄牛と戦いましたが、逆に雄牛に抑えられて敗北の苦渋をなめさせられました。サッ テャーの婿選びの知らせが国中に広まりました。七頭の雄牛に勝てばサッテャーの手を取ることが出来るとお聞きになった主クリシュナはコーシャラ国に行く準備を整え、 多くの兵を従えてコーシャラ国のアョーデャ地方に公式訪問としての旅に向かわれました雲
コーシャラ国の王ナグナジットはクリシュナが自分の娘の手を取りにおいでになっ たことを知り、たんへん喜びました。王は大いなる尊敬の念と篤いもてなしをもって 主を王国に迎えました。クリシュナが王にお近づきになると、王は主にふさわしい座 を捧げ、歓迎の品々を捧げました。すべてが典雅な雰囲気の中で行われています。ク リシュナもまた王に尊敬の礼をお捧げになりました。王が将来の義理の父になる、と 考えていらっしゃったからです。
ナグナジット王の娘サッテャーは、主がサッテャーを妃とするためにおいでになっ たことを知り、胸をときめかせています。幸運の女神の夫が自分を受け入れに来て下 さったのですから、嬉しくないはずがありません。ずいぶん以前から、サッテャーの 胸の内にはクリシュナと結ばれたいという思いが芽生えていました。サッテャーはク リシュナと結ばれるために苦行を行ってきました。サッテャーは心の中でクリシュナ に祈りを捧げました。一今まで出来る限り敬度なことをしてきました。今まで真剣にクリシュナの妃にな ることを望んできたのですから、クリシュナはこの長い望みをかなえて下さるかも知れません。一バガヴァーン・ク噸/シュナが私に喜んで下さるかどうかは分かりません。猿ガヴァ ーンはすべての者の支配者、主人でいらっしゃいます。バガヴァーンのそばにいらっ しゃる幸運の女神、主シヴァ、主ブラフマーなどの他にも、他の惑星に住む神々でさ えも、主に尊敬の礼を捧げていらっしゃるのです。主は献身者の望みをかなえるため に、様々な化身の姿でこの惑星に降りておいでになります。主は崇高なお方、偉大な お方でいらっしゃいます。どうすれば主に喜んで頂けるのか、私には分かりません」 主のいわれのない慈悲がなければ献身者は主を喜ばせることが出来ないことをサッ テャーは思いました。主のいわれのない慈悲がなければ、主を喜ばせることは不可能 なのです。主チャイタンニャも同じようにシクシャースタカの祈りの中で、 「わが主よ、私は御身の永遠の召使です。しかしどうしたことか、私はこの物質界 に落ちてしまいました。どうか私を救い上げ、御身の蓮華の御足の挨の一粒にして下一 式』い」とおっしゃいました”謙虚な奉仕精神の態度によってのみ主を満足させることが出 来るのです。グルの導きの下で奉仕を捧げるに従って、しだいに主に近づく道を進ん ふや少?合7 で行くことが出来るのです。主に仕えたからといって、主からの慈悲や恩寵を欲しがっ てはなりません。主は奉仕をお受け入れ下さるかも知れませんし、受け入れて下さら ないかも知れないのです。いずれにせよ、主を満足させる唯一の方法はただ奉仕の態度しかないのです。
ナグナジットは敬度な王でした。王はクリシュナを宮殿に迎えて、出来る限り知り 得る限りの方法で主クリシュナを崇拝しました。王は言いました・ いこ 「わが主よ、御身こそが全宇宙の所有者、そしてすべての生命体の憩うところ、ナ ーラーャンでいらっしゃいます。御身は自らの内に満ち足りていらっしゃって、自ら の富に満足していらっしゃいます。ですから私ごときが何をもって御身への捧げ物と なしましょう。私ごときが何を捧げて、御身に満足して頂けるのでございましょうか。 私のごとき取るに足らぬ者が御身にお喜び頂くなどは不相応なことでございます。私 には御身に捧げ物をするなど、そのような資格はございません」
すべての生命体のスーパーソウルでいらっしゃる主クリシュナは、ナグナジット王
の娘サッテャーの胸の内は手に取るように分かっていらっしゃいます。王は主に座麓 食べ物、住居などを捧げ、主はそのような王の敬意に満ちた崇拝にたいへん満足され ました。娘サッテャーも父ナグナジット王も主を親戚に迎えたいと熱く望んでいるこ とに気づいていらっしゃった主クリシュナは、微笑みを浮かべ荘厳な声でおっしゃいました「ナグナジット王よ、いやしくも王の座に就く者は、いかに高貴な身分であろうと、 誰にどのような物も求めてはならないことになっています。クシャトリャ王が物を乞 ぞゃうけい うことは、ヴェーダに造詣の深い人々によって厳しく禁じられています。クシャトリ ャがその規則を破るなら、偉大な学者からのそしりを免れることは出来ません。王よ り篤く歓待頂きました私は、そのご芳志にお応えして、王と親族関係を結ばんがため、 あえてクシャトリャの規則に背いて、美しい王女サッテャーの手を取らせて頂けます ようお願い申し上げる次第でございます。しかしながら、今一つ、王にお知りおき頂 めと きたいことがございます。わが家系の伝統に従って、サッテャー王女を要りましても、 私のほうからはいかなる物もお捧げすることは出来ません。王女の手を取らせて頂く ことに関して、いかほどかの物をお求めになっても、お応え出来兼ねるのでございますつまりク噸/シ『一ナは七頭の雄牛と対決せずにサッテャーの手を取ることを望んでい らっしゃったのです。
主の言葉を聞いてナグナジット王は言いました。 「わが主よ、御身はすべての喜び、すべての富、すべての質の源であり、幸運の女 神ラクシュミージーはいつも御身の胸で暮らしています。これらを考えてみますと、 御身の他には娘の婿にふさわしい者はいません。娘も、この私も、この機会を待ちわ おさ びておったのでございます。ヤドゥ王家の長である御身もご存じのように、娘の婿選 びのために一つ工夫をこらしました。わが娘の婿にふさわしいその条件を満たした王 子だけに娘の手を取らせることが最初からの誓いだったのでござます。娘の婿になろ うとする者の勇敢さや地位を試すために、そのような試練を課したのです。主クリシュ ナょ、御身こそが英雄の中の英雄でいらっしゃいます。御身なら疑いなく七頭の雄牛 の鼻に綱を通し、難無く抑えることが出来ましょう。今このときまで、どの王子も雄 牛七頭を抑えることが出来ませんでした。雄牛どもを抑えようと志願した王子たちは、 誰も彼も皆、手足を折られてしまいました。クリシュナよ、どうか七頭の雄牛の鼻に綱を通し、抑えて下さい・娘サッテャーの婿となって下さい」
この言葉を聞いて、王が誓いを破りたくないことを主は理解されました。ナグナジッ ト王の望みを満たすために、主はベルトを締め、雄牛と戦う準備をし、ただちに自ら を七人のクリシュナに分身されました。それぞれのクリシュナがたちまちのうちに雄 牛を捕らえ、鼻に綱が通されました。七頭の雄牛はどれも皆、あたかも玩具のように制されてしまいました。
クリシュナが七つに分身されたことは非常に重要です。クリシュナが他にも多くの めと 妃を要っていらっしゃったことは、ナグナジット王の娘サッテャーもすでに知ってい ました。それでもクリシュナに心を奪われていたサッテャーを励ますために、主は七 身に分身されたのです。このことはクリシュナは一人でありながら、無限の姿を持つ めと ていらっしゃることを物語っています。主は何千もの妃を要られましたが、同時にす べての妃とともにいることも出来るのです。クリシュナは拡張体によってそれぞれの 妃とともに過ごしていらっしゃったのです。 七頭の雄牛は鼻に綱をかけられ動きを封じられると、力も自尊心も打ち砕かれ、力 牛としての名声も露と消え去りました。クリシュナは雄牛の鼻に綱をかけ、あたかも子供が玩具の木の牛を引っ張るように、雄牛を強くお引きになりました。ナクナジッ ト王はこのようなクリシュナの雄姿を見て驚き、娘サッテャーをクリシュナの前に連 れ出し、主に手渡しました。クリシュナもまたサッテャーをすぐに妃としてお受け入 れになりました。次に豪華な婚儀の典がひらかれました。ナグナジットの王妃たちも、 娘サッテャーがクリシュナと結婚することを大いに喜びました。王や王妃たちがこの 吉兆な結婚を喜んでいたので、街全体も祝いの大騒ぎでした。街全体にほら貝やケト ルドラムの音がこだまし、他の楽器や歌声がそれに加わります。高い学識を持つブラ ーフマナたちは婚儀をすませたばかりのクリシュナとサッテャーに祝福を捧げました。 歓喜した街人たちは色とりどりの衣装を身にまとい、様々な装飾品を身に着けました。 ナグナジット王はたいへん満足し、娘と娘婿に次のような結資を与えました
まずは一万頭の牛、着飾った若い女中を三千人。女中たちは首から爪先まで装飾品 に飾られていました。インドではこの結資のしきたりは今でも特にクシャトリャの間 によく見られます。クシャトリャの王子が結婚するときには、少なくとも十人の女中 が花嫁とともに贈られます。牛と女中を与えた後、王は九千頭の象と、その百倍の馬 車を与えました。つまり王は九十万台の馬車を与えたのです。与えた馬の数は馬車の百倍、九千万頭です。そして馬の数の百倍の召使も与えました。王は多数の召使や女 召使の所有者で、あたかも自分の子供や家族の一員であるように、召使にすべての必 要品を支給していました。このように結資を与えた後、コーシャラ国王ナグナジット はクリシュナとサッテャーを馬車に座らせ、二人の宮殿に向かわせました。その馬車 の周りを礼装した兵士たちが護衛しています。王は二人の馬車が新居に急ぐのを見て いると、クリシュナとサッテャーヘの愛しさが胸の中に感じられました。
サッテャーとクリシュナが結婚する前、ヤドゥ家やその他の王家の数多一くの王子た ちがサッテャーの手を取ろうとしてナグナジット王の雄牛と対決しました。サッテャ ーの手を取ることが出来なかった他の王家の王子たちはクリシュナが雄牛を倒して望 みを果たしたことを聞くと、当然クリシュナに妬みの念を抱きました。クリシュナが ドワーラカーに向かっていらっしゃったとき、雄牛に敗北して望みを果たせなかった 王子たちが主を取り囲み、婚儀を終えたばかりの一行に矢の嵐を降り注ぎました。王 子たちがクリシュナの一行を襲い、降り止まぬ豪雨のような矢を射かけると、クリシュ ナの親友アルジュナはたった一人で王子たちの全軍を駆逐し、結婚の儀を終えたばか りの大の親友クリシュナを喜ばせました。アルジュナが強弓ガーンディーヴァを手に取ると全軍はたちまちのうちにあたかも百獣の王ライオンに追われただけで逃げ とんそ輪7 出す小動物のように、先を争って遁走しました。アルジュナは王子のうちの一人さえ も殺さず、全軍を遁走させたのです。その後、ヤドゥ王家の長、主クリシュナは、婚 儀をすませたばかりの妃と膨大な結資とともにドワーラカーの街にお入りになり、ド ワーラヵーの街で妃と平和な日々をお過ごしになりました。
クリシュナにはもう一人の叔母がいました。それはクリシュナの父の妹で、名前は シュルタキールティです。シュルタキールティはすでに結婚していて、ケーカャ国に 住んでいました。シュルタキールティにはバドラーという名の娘がいました。そのバ ドラーもまたクリシュナの妃になることを夢見ていました。バドラーの兄が何の条件 もなしにバドラーをクリシュナに捧げると、主はバドラーを正式な妃としてお受け入 れになりました。その後、クリシュナはマドラス国の王女、ラクシュマナーとも結婚 されました。ラクシュマナーもあらゆる良い性質を具えていました。ラクシュマナー の場合も強引な結婚でした。悪魔たちの手からガルーダが甘露の壷を奪い去ったよう に、クリシュナはラクシュマナーを奪い去られました。スワャンヴァラ(多くの王子 の中から王女が婿を選び出す儀式)の集まりに参加した多一くの王子たちの目の前で、
クリシュナはラクシュマナーを誘拐されたのでした。
この第五十七章にはクリシュナが五人の妃を要られたことが述べられていますが、 それはまだすべてを語り尽くしているわけではありません。その五人の他にも、クリ シュナには何千人もの妃がいました。クリシュナはボウマースラという悪魔を殺した 後にも、何千人もの女性を妃とされました。何千人もの王女たちがボウマースラの宮 殿に囚われていたのですが、クリシュナは王女たちを釈放して、そのすべてを妃とさ れたのです。
以上一.クリシュナ』第五十七章一グリシュナと結ばれた五人の王女」に関するバク ティヴェーダンタ解説終了。