第63章
主クリシュナと バーナースラの戦い
雨期の四ヵ月も終わりを迎えましたがアニルッダは今だに戻りません。アニルッ ダ失腺事件の解決の糸口さえつかめず、ヤドゥ家の人々は不安に包まれています。そ んなある日のこと、偉大な献身者ナーラダが現れ、アニルッダが失院した一部始終を ヤドゥ家の人々に聞かせました。ヤドゥ家の人々は、アニルッダがバーナースラの治 める帝国の都ショーニタプールに運ばれ、そこで兵たちをすべて敗ったにもかかわら ず、バーナースラのナーガパーシャに捕らえられたことを知りました。主クリシュナ に大きな愛情を持っていたヤドゥ家の人々はショーニタプールの街を攻撃しようと決 意し、プラデュムナ、サーテャキ、ガダ、サーンバ、サーラナ、ナンダ、ウパナンダ、 バドラなどのヤドゥ家の指導者たちの集会が開かれ、十八のァクショーヒニー(師団) が編成されました。ただちに十八ァクショーヒニーの大軍がショーニタプールに出動 し、ヤドゥ軍の兵、象、馬、軍車が街を包囲しました。
ヤドゥの軍勢が街全体を包囲し、攻撃体制に入ったという報告がバーナースラのも とに届けられました。街壁は壊され、門は破られ、近隣の公園が踏み荒らされている という報告を受けたバーナースラは激しい怒りを抑えることが出来ず、ただちにヤドゥ の軍勢と同じ十八ァクショーヒニーの軍団に出動命令を下しました。バーナースラに慈悲深い主シヴァは、英雄の名にふさわしい二人の息子カールティヶーャとガナパティ とともに降りて来て、自ら総司令官となりました。ナンディーシュワラ(主シヴァ) は寵愛する雄牛に乗り、バーナースラ軍の戦闘を指揮して主クリシュナや主バララー マと戦いました。主シヴァが武勇の誉れ高い二人の息子とともにバーナースラの軍に つき、バガヴァーン主クリシュナと兄のシュリー・バララーマジーがヤドゥの側に加 しれつ わっていらっしゃるのです。戦いがどれほど職烈なものであったかは想像に難くあり ません。激烈を極める戦いの様子を見た者は驚異に打たれ、全身の毛を逆立たせまし た。主シヴァは主クリシュナと直接戦い、プラデュムナはカールティヶーャ、主バラ ラーマはクーパカルナに支援されたバーナースラ軍の総司令官クンバーンダと向い合 いました。クリシュナの息子サーンバはバーナースラの息子と戦い、バーナースラは ヤドゥ軍の総司令官サーテャキと戦い合いました・
ヤドゥとバーナースラの軍が戦っているという知らせが全宇宙に広まると、高位の 惑星に住む主ブラフマーを筆頭とする神々、偉大な聖人や聖者たち、シッダ、チャー ラナ、ガンダルヴァたちが飛行船でやって来ました。主クリシュナと主シヴァの両軍 の戦いを観戦しようと、数多くの飛行船が戦場の上空を飛び交っています。主シヴァは、様々な魁魅腿腫の類や地獄の住民が付き従っているために、別名ブータナータと も呼ばれています。主シヴァに付き従っている者たちには、ブータ、プレータ、プラ マタ、グヒャカ、ダーキニー、ピシャーチャ、クーシュマーンダ、ヴェーターラ、ヴィ ナーャカ、ブラフマ・ラクシャサなどがいるのですが、これらの中では、幽霊となっ たブラーフマナであるブラフマ・ラクシャサがきわめて強大な力を持っています。
バガヴァーン、シュリー・クリシュナの聖なる弓シャールンガダヌに撃たれて、腿みも、プリょや7 魅岨腿どもはいちはやく戦場から逃げ出しました。主シヴァが数々の必殺の武器をバ ガヴァーンに向かって放つと、主シュリー・クリシュナはそれらの武器をいともたや すく迎撃されました。主シヴァがブラフマーストラ(原子爆弾)を放ちます。主クリ シュナもブラフマーストラを放って、主シヴァのブラフマーストラを迎撃されます。 主シヴァが風気の武器を放つと、主は山の武器で対抗されました。つまり主シヴァが 龍巻をもたらす武器を戦場に放ったので、主クリシュナは風を止める物、つまり山の 武器をお放ちになったのです。山の武器が龍巻の行く手を阻みました。そして主シヴァ が猛火の武器を放つと、主クリシュナがそれに対して豪雨の武器をお放ちになり、猛 火は打ち消されてしまいました。
ついに主シヴァがパーシュパタ・シャストラを放ちました。電光石火の早業で、ク リシュナがナーラーャン・シャストラで対抗されます。主シヴァの戦いぶりがますま あくび す激しくなってくると、主クリシュナは機を見逃さず、欠伸の武器をお放ちになりま あくび した。欠伸の武器が放たれると、攻撃を受けた側は疲れ果てて戦意も喪失し、欠伸が 出てどうしようもなくなります。疲れ果て戦意を失った主シヴァがしきりに欠伸をし ています。主シヴァからの攻撃はもはや気にする必要がありません。主クリシュナは 次にバーナースラに立ち向かわれました。バーナースラの兵士たちが主の剣とこん棒 に次々と倒されていきます。一方、主クリシュナの息子プラデュムナと神々の軍の総 司令官カールティヶーャの間にも激烈な戦いが繰り広げられています。負傷し、彩し い流血にみまわれたカールティヶーャは、結局戦意を失い、孔雀に乗って戦場から逃 げ去りました。クーパヵルナやバーナースラの総司令官クンバーンダも主バララーマ のこん棒に散々に打たれたあげく、深手を負い戦場に倒れました。総司令官が致命傷 を負って倒れたため、バーナースラ軍の兵たちは指揮体系を失ってただ右往左往する ばかりです。
将卒が敗れていくあり様を見て怒りを爆発させたバーナースラは、クリシュナの総司令官サーテャキと戦うよりも主クリシュナ自身と直接戦わなければならないと考 えました。ついにバーナースラは長く待ち望んでいた機を手にしたのです。千の手を 持つバーナースラが五百の弓で二千本の矢を放ちながら、クリシュナに向かって突撃 します。しかし、このような愚か者は決してクリシュナの力を知ることが出来ません。 瞬く間に主クリシュナの矢がバーナースラの弓を真っ二つに折ってしまいました。次 に主が軍車の馬をお撃ちになりました。馬がもんどりうって戦場に叩きつけられ、軍 車が粉々になって飛び散ります。バーナースラの猛突撃は阻止されました。主クリシュ ナがほら貝のパーンチャジャンニャを高らかに吹き鳴らされます。
バーナースラは母親であるコータラーという女神を崇拝していました。このコータ ラーは息子の命が危険にさらされていることを知り、慌て取り乱して、戦場に姿を現 しました。コータラーが髪を振り乱し、一糸まとわぬ姿でクリシュナの前に立ちふさ がりました。裸女が突然目の前に立ちふさがったのです。主は不快そうな面持ちで目 をそらされました。主が目をそらせたすきに、バーナースラは素早くクリシュナの攻 撃から身をかわし、戦場からいち早く逃げ出しました。弓の弦も断ち切られ、御者も 失ったバーナースラには、街に帰る他に道がありません。バーナースラは戦場ですべてを失一一てしまったのです曇
魁魅胆趣、ブータ、プレータやクシャトリャなどの主シヴァの従者たちもクリシュ ナの矢に苦戦を強いられて、戦場から敗走する他にありませんでした。ついに、主シ ヴァが最後の攻撃に出ました。必殺の武器、シヴァジワラを放ったのです。このシヴァ ジワラは、超高温の熱ですべてを破壊し尽くす武器です。物質界が破壊されるとき、 太陽の熱は通常温度の十二倍になると言われています。この通常温度の十二倍の灼熱 状態がシヴァジワラです。主シヴァから放たれたシヴァジワラの権化は三つの頭と三 かいじん 本の足があって、クリシュナに突進するその姿はすべてのものを灰塵に帰さんばかり の勢いで、激しい猛炎を全方角に発しています。
シヴァジワラに対してナーラーャンジワラという超低温の武器があります。温度が 極めて高い場合は何らかの方法で耐えることが出来ますが、極めて温度が低い状態で はすべてのものが崩壊してしまいます。死につつある人がそのことを経験します。死 ぬ時にはまず体温が四十度以上にもなり、次に体が崩壊し、その後すぐに氷のように 冷たくなります。シヴァジワラの灼熱を打ち消すことが出来るのはナーラーャンジワ ラの他にありません。
主シヴァがシヴァジワラを放った以上は、ナーラーャンジワラの他に頼るべきもの はありません。本来のナーラーャンであり、ナーラーャンジワラを司るお方である主 クリシュナがナーラーャンジワラを放たれました。二つのジワラの間で激しい戦闘が 繰り広げられています。超高温物体が超低温状態に襲われると、当然のこと温度は下 がります。それと同じ現象がシヴァジワラとナーラーャンジワラの戦いで起こりまし た。シヴァジワラの温度がしだいに下がりだしたのです。ついに耐えきれず、シヴァ ジワラは主シヴァに助けを求めて叫び声を上げました。しかし主シヴァはナーラーャ ンジワラの前ではいかに力を尽くしても打つ手がありません。主シヴァの助けを得る ことが出来ないことを知ったシヴァジワラは、ナーラーャンすなわち主クリシュナに 服従する他ないことを悟りました。神々の中で最も偉大なる主シヴァでさえシヴァジ ワラを助けることが出来ないのです。主シヴァよりも力の劣った神々は、もちろんの ことどうすることも出来ません。シヴァジワラはついにクリシュナに身を委ね、主の 前に尊敬の礼を捧げました。主が喜んで下されば、主の保護を得ることが出来ます。 シヴァジワラは主に喜んで頂けるように、祈りの言葉を捧げました。
主シヴァの究極の武器シヴァジワラと主クリシュナの究極の武器ナーラーャンジワラが戦い合ったこの出来事が示しているようにひとたびクリシュナの保護を得れば、 決して誰にも殺されません。逆に、クリシュナから保護を受けていない人を救うこと は誰にも出来ません。主シヴァはマハーデーヴァ、すなわち神々の中で最も偉大な者 と呼ばれています。一方、破壊を行うのが主シヴァであるのに対し、創造は主ブラフ マーによって行われるので、神々の中で最も偉大なのは主ブラフマーであると考えら れる場合もあります。しかしいずれにせよ、主ブラフマーも主シヴァもそれぞれ一つ の任務しか果たすことが出来ません。主ブラフマーは創造し主シヴァは破壊しますが、 主ブラフマーも主シヴァも維持を行うことは出来ません。それに対して、主ヴィシュ ヌは維持するばかりではなく、創造や破壊も行うことが出来ます。実際には、創造は 主ブラフマーによって行われるのではありません。なぜなら、主ブラフマー自身が主 ヴィシュヌによって創造されたからです。主シヴァは主ブラフマーから創造され、誕 生したのです。これらの点を考えて、シヴァジワラは、クリシュナすなわちナーラー ャンの他には誰も救ってくれる者はいないことを理解しました。シヴァジワラは主ク リシュナに保護を求め、両手を合わせて祈りの言葉を捧げました。
「わが主よ、無限の力をお持ちでいらっしゃる御身に尊敬の礼を捧げます。御身の力を凌ぐ者はおりません。御身こそがすべての者の主人でいらっしゃいます。この物 質界で最も力強い神であるとされている主シヴァは実のところ全能者ではなく、御身 まが こそが全能なるお方でいらっしゃるのです。このことは紛うことなき真実でございま す。御身が本来の意識、本来の知識でいらっしゃいます。知識や意識がなければ、い かなる者も力を出すことは出来ません。非常に強力な物体も、知識や意識との接触が なければ、動くことは出来ません。素晴らしい働きをする強大な機械であっても、意 識や知識を持つ者が触れなければ、どのような働きもなすことが出来ません。わが主 けが よ、御身が完壁な知識でいらっしゃいます。御身の人格は全く物質に汚されていませ ん。主シヴァは全創造界を破壊するという力を持つために偉大な神とされ、主ブラフ マーは全宇宙を創造することが出来るために強力な神とされています。しかし実際に はこの宇宙顕現は主ブラフマーや主シヴァによって本来創造されたものではございま せん。御身こそが絶対真理、至上ブラフマン、根本原因でいらっしゃるのです。非人 格的ブラフマンはこの宇宙顕現の根本原因ではなく、御身から現れたものなのです。 ズガヴァッド・ギーター』に述べられているように、非人格的ブラフマンは御身主 クリシュナの体から発している光輝です。ブラフマンの光輝は太陽の光に例えられます。太陽の光は太陽から出たものです。同様に非人格的ブラフマンが根本原因では なく、クリシュナの永遠至福の姿こそが根本原因なのです。物質的な作用反作用はす べて非人格的ブラフマンの中で起こりますが、人格的ブラフマンである御身クリシュ ナの永遠の姿の中には作用や反作用は存在しません。ですから御身の姿は完全な平安 けが と完全な至福に満ちていて、物質的な汚れに決して触れることがないのです。
「物質の体には物質自然の三様式の作用反作用があります。物質顕現は時間の刺激 に影響されているために、時間こそが最も重要な要因です。時間の刺激によって自然 現象が発生すると、果報的活動が始まります。果報的活動の結果、生命体はそれぞれ の体を持つようになります。つまりそれぞれの生命体は、生命の気、自我、十の感覚 器官、心、五大要素によって構成された精妙体や粗荒体に蓄えられた性質を持つよう になり、そしてそれぞれの性質に従って形成された体がまた次の体を作り出す原因と なるのです。このようにして、様々な体が魂の転生の中でそれぞれの束縛された魂に 与えられるのです。これらすべての現象は、御身の物質エネルギーの混合によって現 れます。この外的エネルギーは、様々な要素の作用反作用の影響をお受けにならない 御身によって創造されたものです。物質エネルギーの影響を越えた存在である御身こ
そが至上の平安でいらっしゃいます。ですから他の者には一切保護を求めず、ただ御 身の蓮華の御足に身を委ねるのでございます。
「わが主よ、御身はヴァスデーヴァを父として人間の姿でお現れになりましたが、 それは外的エネルギーによって強いられての誕生ではありません。御身自身の完全自 由な遊戯として行われたことです。御身は、献身者に祝福を与え、非献身者を滅ぼす ために、様々な化身でお現れになるのです。夷ガヴァッド・ギーター』で約束して いらっしゃるように、人生の進歩を阻害する者がいればすぐにお現れになるのです。 御身の様々な化身はその約束を果たすために降誕されるのです。わが主よ、宗教原則 が衰退するとき、御身は内的エネルギーによって降誕されます。御身の主な務めは神々 や精神的な人々を守り養い、物質の法則や秩序を維持することです。御身は物質の法 や秩序を維持する一方で、悪徳の者や悪魔に暴力をお使いになりますが、そのような 法の維持と暴力の行使は、矛盾し合うことではありません。御身は今回初めて化身さ れたのではなく、今までに幾度も幾度も化身して献身者を祝福し、悪魔たちを討たれたの一です〆層
一わが主よ、私は御身がお放ちになったナーラーャンジワラで大きな痛手を負いました。ナーラーャンジワラの冷却作用は危険極まりないもので、わが軍はその威力に 耐えることが出来ませんでした。主よ、物質の体を受け入れ、物質的な欲望に惑った ためにクリシュナ意識を忘れ、御身の蓮華の御足に保護を求めない者は、物質自然の 三つの苦しみをなめなければなりません。御身に服従しない者は永遠に苦しみ続けな ければならないのです」 シヴァジワラの言葉をお聞きになり、主クリシュナはおっしゃいました。 「三つの頭を持つ者よ、お前の言葉に満足した。安心するがよい。もうナーラーャ ンジワラに苦しまなくともよい。ただお前ばかりではなく、誰もが、このシヴァジワ ラとナーラーャンジワラの戦いを心にただ思うだけで、ありとあらゆる恐怖から救われるのだ」
主の言葉を聞いて、シヴァジワラは主の蓮華の御足に尊敬の礼を捧げ幕その場を去(一て行きました。その間に、バーナースラは力を取り戻して立ち直り、戦場に戻っていました。そし て、腰を下ろしていらっしゃった主クリシュナの前に、千の手に様々な武器を携えた 姿を現しました。怒りに駆られたバーナースラは、主クリシュナのお体に数々の武器を洪水のように降り注ぎました。主クリシュナはバーナースラの武器が激しく降って くる様子をご覧になると、鋭利なスダルシャン・チャクラを取り出されました。庭師 せんてい が小枝を勇定するように、バーナースラの千の手を次々に切り落としていかれます。 主シヴァは悟りました。目の前にいるバーナースラを自分の力ではどうしてやること も出来ないのです。そのことに気がつき、正気を取り戻した主シヴァは、自ら主クリ シュナの前に進み出て、主をなだめるために祈りの言葉を捧げました。
その間に、バーナースラは力を取り戻して立ち直り、戦場に戻っていました。そし て、腰を下ろしていらっしゃった主クリシュナの前に、千の手に様々な武器を携えた 姿を現しました。怒りに駆られたバーナースラは、主クリシュナのお体に数々の武器を洪水のように降り注ぎました。主クリシュナはバーナースラの武器が激しく降って くる様子をご覧になると、鋭利なスダルシャン・チャクラを取り出されました。庭師 せんてい が小枝を勇定するように、バーナースラの千の手を次々に切り落としていかれます。 主シヴァは悟りました。目の前にいるバーナースラを自分の力ではどうしてやること も出来ないのです。そのことに気がつき、正気を取り戻した主シヴァは、自ら主クリ シュナの前に進み出て、主をなだめるために祈りの言葉を捧げました。
「わが主よ、御身はヴェーダ讃歌によって称えられているお方でいらっしゃいます。 御身を知らない者は、非人格的ブラフマジョーティが究極の絶対真理であると考え、 御身が永遠の住居にお住いになり、精神的光輝が御身を包んでいることを知らないの です。ですから、御身の別名はパランブラフマンです。「バガヴァッド・ギーター』 の中では、パランブラフマンという語が御身を指すために使われています。御身は、 まさに空間のように、すべての場所に遍在し、物質的なものは御身に触れることさえ けが 出来ないのですが、ハートの中の物質的汚れをすべて洗い落とした聖者は、御身の超 越的な姿を悟ることが出来るのです。御身を悟ることが出来るのは、ただ献身者のみ です。献身者でない者は御身を知ることさえ出来ません。マーャーヴァーディー哲学者たちの概念によれば、御身は空間が御身のへそ火が御身の口水が御身の精液 という形で存在していると考えられています。天界の惑星は御身の頭部、方角は御身 の耳、ウルヴィー惑星は御身の蓮華の御足、月は御身の心で、太陽は御身の目とされ ています。そして、この私は御身の自我でございます。大海は御身の腹部、天界の王 インドラは御身の腕、木々や植物は御身の体毛、雲は御身の髪、主ブラフマーは御身 の知性、ブラジャーパティと呼ばれる偉大な造物主たちは御身の象徴的代表者、宗教 は御身の心臓です。御身の至上の姿の非人格的様相はこのような形で存在すると考え られていますが、しかし根本的には御身は至上者でいらっしゃって、これらの非人格 的様相は御身のエネルギーのわずかな現れに過ぎません。御身は根源の炎に、そして 御身の拡張体は御身から発している光りや熱に例えられるのです。
「わが主よ、御身自身はすべての場所にいらっしゃいますが、宇宙の様々な部分は 御身の体の様々な部分によって構成されています。つまり、想像を絶するエネルギー によって、御身は非人格的様相としてすべての場所に遍在し、しかも同時に様々な場 所に完全な姿で現れていらっしゃるのです。『ブラフマ・サンヒター』にも述べられ ているように、御身は常にゴーローカ・ヴリンダーヴァンにいらっしゃいますが、同
時にすべての場所にも遍くいらっしゃいます。そして一バガヴァッド・ギーター』が 述べているように、御身がお現れになるのは、献身者を保護するためです。御身が物 質界に出現して下さることは、全宇宙に対する幸運を意味しています。ただ御身の恩 寵によってのみ、すべての神々は宇宙の様々な分野を管理運営することが出来るので す。このようにして、高位の七惑星は御身によって維持されています。この物質界が 終末を迎えるときには、神々、人間、低い動物などの姿で現れている御身のエネルギ ーの顕現は御身の中に入って行き、そして宇宙顕現の直接的原因も間接的原因も、存 在の様相を全く現すことなく御身の中に帰って行きます。そして最終的には、御身と 御身以外のものが等しい段階にあるのか、もしくは他のものすべてが御身に従属して いるのかの区別も出来ないような状態になります。御身はこの宇宙顕現の根本原因で あると同時に、その構成要素でもいらっしゃるのです。御身は絶対無二の完全全体で いらっしゃいます。物質現象が顕現している状態の中では、意識段階と夢想段階と無 意識段階という三つの段階がありますが、御身はそれらの物質存在の様々な段階を超 越していらっしゃいます。ですから御身は第四の段階にいらっしゃるのです。御身の 出現や他界は、御身以外の何ものにも依存していません。御身がすべてのものの根本原因であり、御身の原因となっているものは何もありません。御身は御身自身によっ て出現、他界されるのです。わが主よ、御身は超越的な立場にいらっしゃるにもかか わらず、六つの富と超越的な質を示すために、直接的な人格の現れとして、魚、亀、 猪、ヌリシンハ、ケーシャヴァなどの姿を取って降誕され、また間接的な現れとして は、様々な生命体として出現していらっしゃいます。内的エネルギーとしてはヴィシュ ヌの様々な化身の姿として、そして外的エネルギーとしては現象世界としてお現れに なっていらっしゃいます。
「曇った日であれば、一般の人の目には太陽が覆われているように見えるかも知れ ません。しかし雲を創造したのは太陽光線であって、雲は空全体を覆うことが出来た としても、太陽を覆い尽くすことは決して出来ません。知性の乏しい者たちは神が存 在しないと主張していますが、啓発された人々は、様々な生命体やそれらの活動を見 て、御身がすべての原子の中にいらっしゃることを理解します。外的エネルギーと中 間エネルギーを通して御身を見るのです。御身の無限の力に満ちた活動は、ただ最高 に啓発された献身者にしか経験出来ないことですが、外的エネルギーに惑わされてい る人々は、自分たちが物質から生まれたものであると考え、社会、友情、愛情に執着し物質存在の三つの苦しみを自ら抱きしめています。執着の大海に、時には溺れ時 には浮かんで、苦悩と快楽の二元性に支配されているのです。
「わが主よ、生命体は、ただ御身の恩寵によって、人間として生まれてくることが 出来ます。そして人間として生まれれば、物質存在の苦しみから自由になる機会を得 ることが出来ます。しかし人間として生まれながら感覚を支配しない者は感覚的快楽 の波に心を奪われてしまい、御身の蓮華の御足に保護を求めることも、御身に献身奉 仕を捧げることも出来ません。不幸にしてそのような闇の中で生きる者たちは、自ら を欺くばかりでなく、他の者をも欺いているのです。ですから、クリシュナ意識のな い人間社会は欺く者と欺かれる者からなる社会といえます。
「わが主よ、御身がすべての生命体の最愛のスーパーソウルであり、すべての最高 げんわく 支配者でいらっしゃいます。舷惑されている人間たちは結局はいつも死を恐れていま す。感覚的な快楽に執着している者は自ら進んで悲惨な物質界に生まれ出て、感覚的 な快楽という幻影を求めてさすらうのですが、それは疑いなく最も愚かなことです。 なぜなら甘露を捨てて、毒を飲もうとしているからです。親愛なる主よ、私自身や主 ブラフマーを含むすべての神々や、物質的執着をハートから完全に洗い清めた偉大な聖人聖者たちは御身の恩寵によって、心の底から御身の蓮華の御足に身を委ねるこ とが出来ます。私は御身を至上主、最愛のお方、すべての者の魂と受け入れ、御身に 身を委ねます。御身こそがこの宇宙顕現の根本原因であり、維持者であり、破壊者で いらっしゃいます。御身はすべての者に対して平等で、全生命体にとっての最も穏や かな至上の友でいらっしゃいます。御身こそが私たちすべての崇拝の対象です。わが 主よ、私たちがいつも御身に超越的な愛の奉仕を行うことによって、物質の束縛から 自,田でいられますように。
「わが主よ、最後に申し上げます。私はこのバーナースラに親愛の情を禁じること が出来ません。この者は私に心からの奉仕を捧げてくれました。私の望みは、この者 がいつも幸福でいられることでございます。このバーナースラの奉仕に満足した私は、 身の安全を約束してやりました。御身はこの者の祖先、プララーダ王やバリ・マハー ラージのことをたいへんお喜びでいらっしゃいます。わが主よ、どうかこのバーナー スラにもお喜び頂けますようにお願い申し上げます」
主シヴァの祈りをお聞きになり、主クリシュナはシヴァを主と呼びかけて、おつしやい、ま-し先催蓬一冒親愛なる主シヴァょ亨お前の言葉も〆お前の痕-ナースラに対する望みも言受け 入れることにしよう。私はプララーダ王の家系に生まれる悪魔を決して殺さないこと をプララーダ王に誓った。このバーナースラがバリ・マハーラージの息子であること は知っていた。だから、腕を切り落としてバーナースラの偽りの名誉心を取り去りは したが、殺しはしなかったのだ。しかし、バーナースラが指揮していた軍隊は地球を ただ苦しめるばかりであったので、その負担を減らすために全滅させたのだ。バーナ ースラには四本の腕を残しておいた。バーナースラの体は不死身となって、物質的な 傷みや喜びには左右されなくなるであろう。お前の献身者の中の第一人者がこのバー ナースラであることは知っていた。このバーナースラに、これからは何も恐れる必要 がないことを保証してやりなさい」
バーナースラは、このようにして主クリシュナの祝福を受けると、主の前に進み出 て地に頭を押しつけ、尊敬の礼を捧げました。アニルッダと娘のウシャーを連れて来 るようにバーナースラが命令すると、すぐに二人が立派な馬車に乗って現れ、バーナ ースラは二人を主クリシュナの前に進ませました。この後、主クリシュナがアニルッ ダとウシャーの身元をお引き取りになりました。アニルッダとウシャーは主シヴァの《やタ?すう 恩寵によって大きな物質的な富を手に入れることが出来ました。その後、アクショーヒ せんぽやフ ニーの一軍を先鋒としてクリシュナはドワーラヵーに向かって出発されました。その頃 ドワーラカーでは、主クリシュナがアニルッダ、ウシャーとともにドワーラカーにお向 かいになっているという知らせが伝わってきました。ドワーラヵーの人々は旗、花綱、 花輪で街の角という角をすべて飾り、ありとあらゆる大通りや交差点は念入りに掃除さ れ、水で溶いた白壇が撒かれました。どこにも白壇の香りがただよっています。全市民 は友人や親戚を集め、喜びに満ち溢れ、華やかに主クリシュナを歓迎しています。ほら 貝、太鼓、ラッパの音が轟き渡り、街中の人々が主を迎えました。人々の心からの歓迎 を受けて、主はドワーラカーの都にお入りになりました。
主シヴァと主クリシュナの戦いは普通の戦いと違って、全く忌まわしいものではない ことをシュカデーヴァ・ゴースワーミーはマハーラージ・パリークシットに述べていま す。むしろ、主クリシュナと主シヴァのこの戦いを一日の初めに思い、主クリシュナの 勝利に心を喜ばせるなら、生きる苦闘の中で敗北することがなくなるのです。
「バガヴァッド・ギーター」に述べられているように、至上主クリシュナの許しがな ければ、神々の崇拝者たちはどのような恩恵も得ることが出来ません。そのことが、(-ナースラとクリシュナが戦ったこの物語のテーマです。この物語に述べられている ように、バーナースラは主シヴァの偉大な献身者だったのですが、クリシュナに命を 奪われそうになったとき、主シヴァはバーナースラを救うことが出来ませんでした。 しかし主シヴァが自分の献身者であるバーナースラを救うようにクリシュナに懇願す ると、主クリシュナはそれをお認めになりました。主クリシュナはそのような立場に いらっしゃるのです。『バガヴァッド・ギーター』は、至上主の裁可がなければ神々 は崇拝者にどのような恩恵を授けることも出来ないと述べています。
以上一グリシュナ』第六十二章「主クリシュナとバーナースラの戦い」に関するバ クティヴェーダンタ解説終了。